脱炭素社会へ向けての世界の動きは?日本の自動車業界はどのような動向なのかを紹介
近年、ニュースや新聞などで「脱炭素社会」という言葉をよく聞きませんか。なんとなく環境問題に関することだとはわかるかもしれません。しかし、具体的にどのようなものなのか、どういうことをするのか、少しわかりにくいイメージがあります。
そこで脱炭素社会とはどういう意味なのかを紹介。世界や日本が脱炭素社会についてどのような政策をおこなっているのか、日本の自動車道会はどのようは動向なのかについても紹介します。
目次
脱炭素社会とは?
脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を”実質ゼロ”にした社会のことです。「カーボンニュートラル」とも呼ばれます。脱炭素社会は、地球温暖化を抑えるのが目的です。
温室効果ガスの代表は、二酸化炭素(C02)。しかし生き物が生きている以上、二酸化炭素は体内から排出されます。生活する上でも、完全に二酸化炭素をゼロにすることはできません。
そのため温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、地球の温暖化を抑制するのです。ですから”実質ゼロ”という表現をしています。
なぜ脱炭素社会を目指すのか?
どうして近年、脱炭素社会を目指すようになったのでしょうか?それは地球の温暖化が急速に進行しているからです。
2017年における世界の平均気温は、工業化される前の1850~1900年の平均気温より、約1度も上昇しています。そしてこのままだと、これからもずっと気温が上昇していくと予測されているのです。
気温が上昇することで、気候変動がおこります。気候変動は、私たちの暮らしにさまざまな影響を与える可能性があるのです。
たとえば大規模な気象災害が挙げられます。ほかにも自然生態系の変化により、絶滅する動植物の発生が懸念されるでしょう。人間の健康への影響や産業・経済活動への影響も大きいと考えられています。
地球や自然への影響を抑えることは、私たち人間の生活を守ることに繋がるため、脱炭素社会を目指しているのです。
脱炭素社会へ向けた各国の動向
2015年にフランスのパリで「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」が開催され、「パリ協定」が合意されました。パリ協定は、1997年に定められた「京都議定書」の後継となる協定です。2020年以降の気候変動問題に関して取り決められた、国際的な枠組みになります。
パリ協定では、世界共通となる長期目標として、おもに以下のものを掲げています。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前よりも、2℃以上十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半までに温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量を均衡させる
主要国の脱炭素社会実現へ向けて抱えている目標は、 以下のとおりです。
中期目標 | 最終目標 | |
日本 | 2030年度に-46%(2013年比) | 2050年に排出量実質ゼロ |
アメリカ | 2030年までに-50〜52%(2005年比) | 2050年に排出量実質ゼロ |
EU | 2030年までに少なくとも-55%(1990年比) | 2050年に排出量実質ゼロ |
中国 | 2030年までに排出量を削減に転じさせる GDPあたりのCO2排出量を65%超削減(2005年比) | 2060年に排出量実質ゼロ |
イギリス | 2030年までに少なくとも-68%(1990年比) 2035年までに-78%(1990年比) | 2050年に少なくとも-100%(1990年比) |
インド | 2030年までに再生可能エネルギーの比率を50%に | 2070年に排出量実質ゼロ |
カナダ | 2030年までに-40〜45%(2019年比) | 2050年に排出量実質ゼロ |
ロシア | 2050年までに-60%(2019年比) | 2060年に排出量実質ゼロ |
世界各国では、脱炭素社会へ向けてどのような動きをしているのでしょうか。代表的なものを紹介します。
日本
2020年10月、日本国政府は「2050年カーボンニュートラルを目指す」ことを宣言しました。2021年1月には、経済産業省が目標達成について速やかに議論を開始し、加速化をする方針を示したのです。
日本はカーボンニュートラルを実現するために、再生可能エネルギー導入の拡大やメタンを合成する技術の開発、合成燃料などによる脱炭素化といった方策を考えています。カーボンニュートラルを目指すことで考えられるのが、国民への負担です。国民の負担軽減のため、既存の設備を最大限活用することを示しています。同時に国民のエネルギー転換への受容性を高めるなど、段階的な取り組みを検討しています。
アメリカ
アメリカでは、2021年1月にバイデンが大統領に就任。翌2月、トランプ大統領時代に脱退していたパリ協定に、アメリカが復帰しました。
アメリカは、電力の脱炭素化やグリーンエネルギー化によって気候変動対策を目指すことを発表。また、その資金として4年間で2兆ドルのインフラ投資をする方針を示しました。
EU
EUでは、2021年に「グリーンリカバリー」という計画を発表しました。グリーンリカバリーとは、コロナ禍による経済ダメージからの復興と、脱炭素社会などの環境問題への取り組みを両立させる中長期的な政策です。
中国
中国は世界最大の人口を誇る大国ですが、同時に世界最大の温室効果ガス排出国でもあります。そのため世界は、中国の脱炭素社会への取り組みに注目しているのです。
中国は、2019年からの1年間で原発約120基分の再生可能エネルギーの設備容量を整備しました。さらに新たな目標として、2030年までに太陽光発電と風力発電の設備容量を、12億キロワット以上に引き上げる計画を発表しています。
また、石炭火力発電プロジェクトの停止を2021年9月に国連総会で表明しました。
脱炭素社会に向けた日本の自動車業界の動き
脱炭素社会を目指した世界や日本の方針を受け、日本の自動車業界ではどのような動きがあるのでしょうか。日本の自動車業界における、脱炭素社会へ向けた動向を紹介します。
日本の自動車メーカー各社は、政府目標の2050年にカーボンニュートラルを達成するのと同じく、2050年のカーボンニュートラル達成でおおむね一致している状況です。
経済産業省は2020年の資料『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』の中で、2030年代までにガソリン車の新車販売をなくす方針を示しました。そのため日本の自動車メーカーでは二酸化炭素の排出を抑えた自動車の開発、つまり「脱ガソリン車」に尽力しているのです。
たとえば、日本のメーカーが開発している脱ガソリン車には、以下のような種類があります。
- 電動車(EV、FCV)
- 水素エンジン
- 合成燃料
- バイオ燃料(bio-Fuel)
脱ガソリン車といえば、電動車がもっとも知られています。電動車といえばEV(電動自動車)のイメージが強いかもしれません。EVのほかにも水素を燃料とした「燃料電池」を用いたFCV(燃料電池車)もあり、各社が開発に力を入れています。
電動車(EV、FCV)
トヨタでは2021年に、2030年の電動車の世界販売台数を800万台程度とするという目標を発表しました。2030年の電動車800万台の内訳は、EV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)が約200万台、HV(ハイブリッド車)とPHV(プラグインハイブリッド車)が約600万台です。また2030年に、新車販売の8割を電気自動車に置き換える方針を出しています。
ホンダでは、2040年に発売する新車をすべてEVとFCVにする目標を掲げました。
水素エンジン
EVやFCVのほかに、水素エンジンの開発に力を入れるメーカーもあります。トヨタで2021年に水素エンジン車で24時間耐久レースを完走。水素エンジンを「EV以外のカーボンニュートラル実現のための選択肢」としました。
合成燃料
さらに、合成燃料の開発も進んでいます。合成燃料とは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して製造される燃料で、「人工的な原油」といわれるもの。再生可能エネルギー由来の水素を使用する合成燃料は「e-fuel」とも呼ばれています。
日本では、トヨタ・ホンダ・マツダなどが開発に取り組んでいます。
バイオ燃料(bio-Fuel)
もうひとつ、注目されている研究がバイオ燃料(bio-Fuel)です。バイオ燃料とは、藻類や穀物・植物など生物由来の燃料です。たとえば、「バイオエタノール」を燃料とした燃料電池システムの自動車などがあります。バイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシなどを原料とするものです。技術的には実現可能なもので、コスト面が課題とされています。
バイオ燃料の開発に力を入れているのは、日産やマツダなどです。
まとめ
脱炭素社会に向けての世界の動きや、日本の自動車業界の動向について紹介しました。日本では2050年のカーボンニュートラルの目標達成にむけ、自動車業界では「脱ガソリン車」の開発に力を入れています。
2030年代のガソリン車の新車販売をゼロにするには、あと十数年しかありません。二酸化炭素を排出しない自動車は数種類あり、どの種類の自動車が日常の足として普及するのでしょうか。
日本の各自動車メーカーの今後の開発状況に、注目していきましょう。